シンメルのあるシネマカフェ
京都府舞鶴市Seis × Cine Grullaを訪ねて
Seis×Cine Grulla
京都府の北東部に位置する舞鶴市。軍港として栄え、田辺城が築かれ城下町として発展した街。現在でも田辺城址や当時の町並みを保存した商店街があるなど、数多くの史跡が残されています。
西舞鶴駅より竹屋町通りを数分歩くと小石が敷き詰められたアプローチがあり、誘われるように進むと現れたのは瀟洒な六角形の建物。
2019年7月にオープンしたシネマカフェ、Seis(セイス)でした。
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館内に入るとふわっと木の香りがして、心地よい空間が広がります。Seis内部中央にはCine Grulla(シネ・グルージャ)というミニシアターがあり、世界中から選びぬかれた映画やピアノの生演奏を鑑賞することができます。このピアノこそが代表中嶋さんが探し求めたシンメルでした。
シンメルのピアノは2021年11月に大切に運ばれました。
シンメルの音色との出会い
中嶋一晶さん― きっかけは映画のピアノ曲でした。『彼が愛したケーキ職人』という映画で流れていたピアノの音色が柔らかく、高音のきれいな音が折り重なってとても印象的でした。ホールにピアノを入れたいという思いを決心した頃に、ピアニストのHiroko Murakamiさん(*後に紹介)との出会いがありました。彼女は『彼が愛したケーキ職人』の楽曲を作曲・演奏しているドミニク・シャルパンティエさんをご存じで、驚くことに同じレーベルアーティスト(1631Recodings)とのこと。現在ドミニク氏が演奏されているのはシンメルのピアノだということを知ったのです。
音色を探して
実際の音を聴き比べたいと思い、ピアニストのHirokoさんと調律師の堀川さんと共に様々なメーカーのピアノの音を聴き比べましたが、探している音と出会うことは容易ではありませんでした。そこで、シンメルピアノ日本総代理店であるムサシ楽器さんのショールームへ伺いました。これがシンメルとの初対面です。実際に弾いてみると、音色はふくよかで温かみがあり、きらびやかな音の伸びに感銘を受けました。その後も他店を周り多数のピアノを聴き比べましたが、ムサシ楽器さんからシンメルを迎え入れることに決めたのです。
『彼が愛したケーキ職人』(*Dominique Charpentier/The Cakemaker (Original Motion Picture Soundtrack))
日常から切り離された空間で、穏やかな気持ちになったり、泣いたり笑ったり、映画や音楽を鑑賞するために時間をとることは贅沢なことかもしれませんが、心が大きく動く場でもあります。お越し頂いた方が、気持ちをリセットして頂けるような、良い刺激を与えられる場所を目指しています。
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調律師歴は長く、調律はもちろん、オーバーホール、塗装までピアノ修理全般を行う。ピアノの音色を探すため、代表中嶋さんとともに方々のピアノ販売店を訪れる。
シンメルを愛するアーティスト
Hiroko Murakamiさん― ピアノ教師の母親の元、幼い頃からピアノと共に歩み、大学でも音楽を専攻していました。社会に出てからは自発的にピアノに向かうようになり、ふとした景色や人との出会いから自然とメロディが浮かび、作曲をするようになりました。そこから仕事として軌道に乗せるのは容易ではありませんでしたが、人と人との出会い、一期一会の想いから作曲したEverlasting Oathという曲がカナダのモデナレコードからリリースしていただけることになりました。そのレーベルに所属されていたDAIGO HANADA(*後に紹介)さんとの出会いもありました。好きなことを続けていれば多くの出会いがあり、その出会いの点が繋がり線となり、更に派生していくのです。そこにたくさんの人が交わり、音楽を通して幸せの輪を広げていくことが私の願いです。
シンメルがあったからこそ自分の音楽が生まれた
私の作りたい音楽は、柔らかく空気のようで芯があり、心の奥深くにそっと寄り添う曲です。普段から海外のアーティストのピアノ曲を聞き、彼らがどのようなピアノで演奏しているか注目していますが、その多くがシンメルで演奏されていました。音がどう人に響くかを掘り下げて考えていた時、シンメルのピアノを試弾する機会がありました。一音を聴いただけで自分の求めていた音に出会えた運命的なものを感じ、改めてこのピアノだと確信しました。昨年、初めてSeisさんでシンメルを使ってライブをしましたが、それもこのピアノだったからこそ自分の色を表現できたのだと思います。私もいつかシンメルを我が家に迎えたいと思っています。
DAIGO HANADAさん― 琴奏者だった祖母の影響もあり、幼い頃からピアノはもちろん、あらゆる楽器が好きでした。人生の挫折や起伏もあった中、常にそばにいたのがピアノでした。いろいろな夢がありましたが、何をしてよいか分からない状況に置かれたときに徐々にピアノに対する愛が大きくなり、23歳の時に本格的にピアノを始めました。ピアノをはじめる年齢にしてはとても遅いスタートでした。
本当の音の探求
私は音楽を奏でるだけではなく、録る立場でもあります。私の作品では、録音するときに弦に対してマイクをピアノの弦から15センチから30センチくらいの距離に設置し、楽音はもちろん、普段は演奏でかき消されてしまうようなノイズ音まで拾います。打鍵音や鍵盤を押し上げる音、ペダルの音などピアノ内のパーツが動く音も極力濁りのない音で録っています。
世間一般では、ピアノ本来の音色がきれいに録れていることが重要視されていますが、私たちはピアノの音を包み隠さずに、アクションの動く音などのノイズも含めてピアノが持ってる本当の音を録ります。そのとき、シンメル社のピアノはブレがなく繊細な音がきれいに録音できます。ピアノの状態が悪かったり、ピアノ自体の響きがよくないと繊細な音が心地よく聴こえないこともあるのですが、シンメル社のアップライトピアノは下の音から上の音まできれいにバランスよく録れるので、全体で完成されたピアノだと思います。
一般的にアップライトピアノというと家庭用とか練習用というイメージがあると思うのですが、私はそのイメージを覆してアップライトピアノならではの素晴らしさを広めていきたいと思っています。
音をつくる
私の作品では奏法として演奏の際に弦に布を被せるのですが、その奏法においても特にシンメル社のピアノは自分の創りたい世界観を実現してくれます。他のメーカーのピアノでもその方法で演奏してきましたが、音のなめらかさや持続時間、音の減衰の仕方にあまり納得のいくピアノには出会えませんでした。音の響きが鈍かったりだんだん弱くなってアンバランスになるピアノも多いので布の調整が難しいのですが、シンメルのピアノに関してはなめらかな減衰を感じます。音色や雰囲気は布の被せかたひとつで大きく変化します。布をハンマーの形に合わせてひとつひとつ切りこみをいれると濁りのないなめらかな音になります。一方、布を切らずにそのまま被せると、布の種類や厚さにもよりますが、となりの弦にも影響して隣の音がかすかに鳴ることがあります。でも決して不協音なわけではなく、それもハーモニーのひとつなのです。
Shop Introduction
シアターに設置された椅子はどれも素敵なデザインでバリエーションが豊富。ワクワクの仕掛けを常に考える代表中嶋さんの気持ちが伝わるようです。上を見れば吸い込まれそうな大きな丹後ちりめんの天蓋。ここで小さな宇宙を感じることができるかもしれません。
映画のジャンルは多様で世界中から選りすぐりの作品が上映されます。作品選びはバランスと年間を通しての流れを大切にしているといいます。映画を観ながらカフェを楽しみ、世界の雑貨を手にとりながら中嶋さんと話をしたり。
他の映画館では味わえない魅力があります。
中嶋さんセレクトの世界の雑貨も興味深く、館内のストアには、インドのハンドメイド絵本やグラフィックデザイナーによる創作絵本、注染という手法で職人の手によって染められた手ぬぐい、ニーチェアエックスのロッキングチェアなど、どれひとつとっても素晴らしいものが置かれ、良質をモットーに選ばれた中嶋さんの思いが伝わります。
代表の中嶋さんをはじめ、調律師の堀川さん、ピアニストのHirokoさん、DAIGOさんにも貴重なお話を伺い、充実した時間をいただきました。
コーヒーやリーフティーを楽しみながら映画やピアノのライブを鑑賞するひとときは、日常を優雅な気分にさせてくれます。Seisという空間は、シネマシアターという概念を超えた場所と言えるのかもしれません。中嶋さんの人柄や思いが映像、音に伝わって、人へ、また人へと繋がって広がっていく、Schimmel の新しい居場所はそんなぬくもりに包まれていました。
Seisさんの建物は
「第1回京都の木の家づくり表彰作品」で最優秀賞(府知事賞)を受賞しています。
https://www.hankaikoichi.com/portfolio/セイス/
Seisさんを建築された設計士さん
〈半海宏一建築設計事務所〉
京都を拠点にに住宅設計を行い、関西をはじめ東京などでも活動されています。
https://www.hankaikoichi.com/profile-1/
Seis×Cine Grulla
〒624-0928 京都府舞鶴市竹屋24-2
電話:0773-60-5566
営業時間:12:00-22:00 (定休日 月・火)
https://cinegrulla.com/
取材日2022年1月27日(木)